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2011/12/14 12:32

インタビュー

似顔絵は自分を客観視できる鏡です
――斎藤 忍さん(マスター・ジーベック アートディレクター)(1/2)

 斎藤さんが似顔絵を描くときは、徹底的にモデルを観察し、モデルの内面をあぶり出す。時に辛らつにみえるが、描かれたモデルは、その絵に徐々に愛着をもつようになってくるそうだ。オリジナリティをひたすら追求する斎藤さん。ものづくりの原点がそこにある。新刊の似顔絵集の話題を交えながら、斎藤ワールドに迫った。【取材:2011年9月20日 BCNのオフィスにて】

プロフィール

斎藤 忍(さいとう しのぶ)

1959年生まれ。多摩美術大学立体デザイン科卒業。赤井電機のデザイン室にインダストリアルデザイナーとして16年間勤務の後、独立。テレビ東京「TVチャンピオン」似顔絵毒絵スペシャルのチャンピオン、第1回アートアカデミー似顔絵部門グランプリを受賞した似顔絵業界ではカリスマ的存在で、容赦のない独特のデフォルメが特徴。商工会や中小企業などのウェブサイトも多数制作している。尚美学園大学講師。現在、マスター・ジーベックのアートディレクターを務める。

「(モデルになった人は)周りの人から『似てる!』といわれて、はじめて、これが自分なのかなと受け入れる」と斎藤さん

 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男

<1000分の第61回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

インダストリアルデザイナーからウェブデザイナーへ

 奥田 斎藤さんが似顔絵の世界に入られたきっかけを聞かせていただけますか。もともと絵はお好きだったわけですね。

 斎藤 ええ、子どもの頃からいろいろな絵を描いていました。

 奥田 絵画の道といっても、いくつかの選択肢があったと思いますが、どういうわけで似顔絵を選んだのですか。

 斎藤 オーディオ機器の会社にいる頃は、インダストリアルデザインをやっていましたが、似顔絵はちょくちょく描いていました。美大出身なので、とくに珍しいことでもなくて、まわりの連中もみんな時々は描いていましたね。会社のデザイン部に在籍していましたけど、みんなそこそこ描けたんです。だから、そんな特殊な能力でもないし、スキルでもないなあと思っていましたが……。

 奥田 そこに転機が訪れるわけですか。

 斎藤 そうですね。会社を辞めたのが1996年で、独立するか就職するかずいぶん迷いました。当時、オーディオ業界は下降線にあって、また新たな会社に入っても、たぶん会社自体が長続きしないだろうな、と。違う業界も考えはしましたが……。その頃、ちょうどインターネットが出始めた頃で、このブームに乗っかって何かやったほうがいいんじゃないかと思ったんです。インダストリアルデザインを独立してやるには、コストがかかりすぎる。プロッターとかCADとか、サンプルを置くスペースとか。グラフィックをやろうかとも考えたのですが、グラフィックというのは競合が多くて、供給過多の感じもしていましたし、おそらく値段も叩かれるだろうなという思いもありました。いろいろ考えて、じゃあ、ウェブデザインをやろうと決めたんです。

 奥田 まだ、ウェブの世界も黎明期ですよね。

 斎藤 ええ、HTML1.0の頃です。それを勉強しながら、まず、自分のホームページを作って、そこに入れる面白いコンテンツがないかなあということで、有名人の似顔絵を描いて載せ始めたんですよ。

 奥田 そこから似顔絵の世界へ入られるわけですか。

 斎藤 そうです。そうしたところ、1年くらいしてから、急にアクセスが増えたんです。どうしたのかなと思ったら、ヤフーのメガネマーク(おすすめサイト)に登録されたのがきっかけでした。と、同時に「この人を描いてくれ」というリクエストがものすごくきました。有名人には肖像権がありますから、お金にはなりませんが、毎日のように描いているとそれなりに技術もアップしてきます。

 奥田 それが、今回出版された『0歳から100歳までの似顔絵で検証する 人生を変える似顔絵』につながっていくわけですね。似顔絵の面白さというのは、どんなふうに理解したらいいのでしょうか。

 斎藤 端的にいえば、人生が変わるということですね。モデルさんが自分の似顔絵を見て、改めて自身を見直すことになります。人間って、結局のところ、客観的にどう見られているかっていうのを知る機会がないじゃないですか。もちろん、写真とか動画はあるのですが、それは外見的なもので、内面的なものをどう見せてあげるか。その手段が似顔絵なのです。

 奥田 内面を描くわけですか。その内面を知るにはどのような方法がありますか。

 斎藤 本当は対面して描くのが一番いいのですが……。人間の顔の種類って、そんなに無限にあるわけではないですから。経験を積んでいれば、写真だけでも、この顔の人はどういうことを考えているかがだいたいわかるものなんです。

 奥田 実際のところ、人間の顔って何種類くらいあるのでしょう。

 斎藤 そうですね、大雑把に分けると、50種類くらいですかね。

 奥田 ずいぶんありますね。その分類のなかで、それぞれの人が何を考えているかはわかるものなのですか。

 斎藤 何を考えているか。どのような価値観をもっているか。どんなキャラクターなのか。健康状態はどうなのか。今、ハッピーなのか、悩んでいるのか──。そういったことは顔を見ればわかります。

 奥田 顔つきは変化しませんか。

 斎藤 変化します。去年までは非常につらい思いをしていた人が、今年は吹っ切れてハッピーになったというような場合は、違う人格になりますね。

 奥田 では、その場合の似顔絵もぜんぜん違うわけですね。『人生を変える似顔絵』をじっくり拝見させていただきました。何人かの似顔絵作家が描いておられますが、斎藤さんのが一番辛らつですね。

 斎藤 人の内面をえぐるというか。そのほうが見る人にとっては面白いですよね。そういうふうに描くと、モデルになった人は最初はみんな引きます。「私って、こんなふうなの?」って。ただ、そういう似顔絵のほうが後々愛着が湧くんですよ。見てるうちにだんだんと自分の分身に思えるようになってくる。

 奥田 興味深い現象ですね。

 斎藤 自分はこういうものだということが徐々に見えてくるということですね。自分の内面を覗くきっかけになって、そこから客観視ができる。周りの人からも「似てる!」なんていわれれば、自分でも思いが変わってきますし、愛着も湧いてきます。モデルが求めるものとわれわれが求めるものが合致するということですね。

コンテンツ制作のパワーが弱い

 奥田 斎藤さんの作品には、オリジナリティ溢れる、ものづくりのパワーを感じますね。

 斎藤 ありがとうございます。

 奥田 IT業界に話を移しますと、例えば半導体においては、今、日本はことごとく台湾と韓国に負けています。日本の半導体は細部にわたってハイスペック、ハイスペックでつくり上げていきます。そうすると、商品が出るまでに時間がかかります。その時間がすべてコストに跳ね返ります。高価な商品になるわけです。サムスンは相手の欲しいスペックで値段も安い。これでは勝てるわけがありません。モデルと斉藤さんの関係のように、合致しないわけです。

 斎藤 半導体に限らず、日本のプロダクツは全部、その傾向にありますね。マーケットに対してユーザーが欲するものではなくて、自分たちのスペックを追求してそこで満足するということです。さきほどの奥田さんの言葉に、オリジナリティというのがありましたけど、やっぱり、日本はコンテンツをつくるパワーが弱いと思います。オリジナリティがない。マーケティングとつくり手のオリジナリティにもっと注力して、世界に売れるものを、世界で欲しいなと思われるものをつくらなくてはいけないと思います。

 奥田 ものをつくるということは、売る人、使う人のことも十分に考えなくてはいけないということですね。

 斎藤 ものづくりの企業もわれわれのようなデザイナーも、そこは同じことだと思います。

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