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2014/12/11 09:22

インタビュー

[週刊BCN 2014年12月08日付 Vol.1558 掲載]

ロボットの開発で最も大切なことは目的をはっきりさせること(上)
独立行政法人海洋研究開発機構 海洋工学センター 海洋技術開発部探査機技術グループ 技術研究員 工学博士 中谷武志

 介護や医療だけでなく、コミュニケーションの分野にまで“ロボット”が進出してきている。ロボットを陸上ではなく、深海で活躍できるようにするために奮闘している若き研究者がいると聞いた。研究の進路を考慮していた大学時代、高い山と深い海、世界一になるにはどちらに関わればよいだろうと考えて、“海”を選んだのだそうだ。その発想はおもしろい。建物の眼下に海が広がるJAMSTEC(海洋研究開発機構)横須賀本部に中谷さんを訪ねた。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・浅井美江  写真・津島隆雄)
【取材:2014.9.9/JAMSTEC 横須賀本部にて】

プロフィール

中谷 武志(なかたに たけし)
1981年、兵庫県の赤穂に生まれる。京都洛南高校から東京大学に進み、2004年、同大学工学部卒業。この年、日本造船学会から、卒業論文の成績上位者2人に授与される奨学褒賞を受賞。2009年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。東京大学生産技術研究所の浦環(うら たまき)教授の下で、“自律型海中ロボット”の開発に関わる。2010年、JAMSTEC入所。海洋工学センターで海中探査機の開発、次世代探査機に関わる要素技術の研究開発に勤しんでいる。

2014.9.9/JAMSTEC 横須賀本部にて

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

株式会社BCN 会長 奥田喜久男

<1000分の第125回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

世界一を目指すには高い山より深い海

中谷 実は私、BCNさん(の創業)と同い年なんです。

奥田 おお、1981年。何月生まれですか?

中谷 6月です。

奥田 じゃあ、BCNより2か月お兄さんだ。BCNの創業は8月18日ですから。そうですか。BCNも人間ならばこんなに大きくなったというわけか……。ちょっと感無量ですね。海中探査機を開発されているとのことですが、その分野を研究するきっかけを教えてください。

中谷 2000年に東京大学へ入学したんですが、当時は環境問題がクローズアップされていた頃で、砂漠を緑化したいと考えて、農学部に入ったんです。

奥田 なるほど。

中谷 でも、入ってから自分がこの先40年働くとして、何に打ち込みたいかと考えたら、まずは自分がドキドキ・ワクワクしたい、そして次には人を驚かせたいと。で、世界で一番高いところに登った人はどのくらいいるんだろうと調べてみたら、1953年、エベレストにイギリス人のエドモンド・ヒラリーが登頂して以来、2000年頃にはすでに1000人が登っていたんです。では、逆に一番低い、つまり深いところはどこかと調べたら、日本から約3000km離れたマリアナ海溝のチャレンジャー海淵。深さは水面下およそ1万900mでした。

奥田 その深さはすごいですね。

中谷 エベレストを海中にもっていっても、海面から頭が出ないくらい深い。で、マリアナ海溝に行った人を調べたら、アメリカ人のドナルド・ウォルシュとスイス人のジャック・ピカールが1960年に潜っている。でも、2000年の時点では、その後誰も行っていなかったんです。

奥田 すでに2人はいたと。

中谷 でも、たった2人です。1000人と2人なら、2人のほうが、世界一に近いかなと(笑)。それに、深海には電磁波が届かないとか超高圧力であるなど、研究対象として非常に難しいことがわかった。そうなると、難しいからこそ勉強したいなという思いもあって……。

奥田 海が好きという理由ではなかったのですね。

中谷 海は大好きです。生まれが播州・赤穂なので、小さい頃は毎年、小豆島へ海水浴に行っていましたし、大学の時に始めたスキューバダイビングで、小笠原とか与那国にある海底遺跡などで潜ってましたから、海には縁がありました。でも、スキューバだと潜れる限界は30m、片や海の平均水深は3800mもあるんです。いわば富士山一つ分の高さに対して、ほんのすそ野にも到達していない。さらに調べていくと、深い部分はロボットが行く世界であることもわかってきました。それで俄然興味がわいて、農学部から工学部に転部したんです。

深海の鉄腕アトムをつくりたくてJAMSTECへ

奥田 農学部から工学部に転部して、その後、どうなさったのでしょう。

中谷 工学部システム創成学科環境・エネルギーコースに進み、海中ロボットの研究を始めました。大学卒業後は、東京大学生産技術研究所で大学院に進み、さらに研究員として、ロボット研究で有名な浦環(うら たまき)教授の指導の下で、いろいろな研究機関や企業と組んで“自律型海中ロボット”をつくっていました。

奥田 研究員は何年間?

中谷 2年間です。

奥田 それは次の就職活動へのステップという意味だったのですか。

中谷 それもありますが、自分が関わっていた海中ロボットの後任が決まるまでは携わっていたいと思っていました。JAMSTECのような組織では、何人かのチームでロボットを担当できるのですが、大学の場合だと人員が少ないので、担当は1人なのです。だから私が抜けると、ロボットが動かなくなるということもあって、後任が決まるまではと。

奥田 つくっておられたのはどんなロボットですか。

中谷 海中ロボットは、大きく分けると3種類あって、一つは人が中に入って潜ることができる有人潜水船。JAMSTECがもっている「しんかい6500」がこれにあたります。あとの二つは無人タイプです。無人機と母船をケーブルでつないで、船上から人が遠隔操作する遠隔操縦ロボット(ROV, Remotely Operated Vehicle)、そしてケーブルからの拘束を受けず、ロボットが自力で海中を移動したり、障害物をよけたりして自律的に探査をする自律型海中ロボット(AUV, Autonomous Underwater Vehicle)です。アニメや漫画に例えるならば、それぞれ「ガンダムタイプ(またはエヴァンゲリオンタイプ)」「鉄人28号タイプ」「鉄腕アトムタイプ」です。私がつくっていたのは、AUVなので「鉄腕アトムタイプ」ですね。

奥田 (笑いながら)なんか、半分は遊びみたいですね。

中谷 いやいや。“遊び心”と言ってください(笑)。ちなみにロボットの名前は「Tuna-Sand(ツナサンド)」でした。

奥田 これまたおいしそうな名前で……。

中谷 ちゃんと意味がある名称の略なのですが、ダブルミーニングとして、Tuが浦環教授のイニシャルで、naは私、中谷の「な」なんです。Tuna-Sandは、2012年に経済産業省が主催する「第5回ロボット大賞」で、「ロボット大賞(優秀賞)」を受賞したんですよ。

奥田 おお。それはすごい。

中谷 大学在籍時代には、Tuna-Sandの実海域実験のために、JAMSTECから「よこすか」や「なつしま」という支援母船を借りて航海もしました。JAMSTECには、「研究船利用公募」という制度があり、日本全国から広く研究課題を公募し、優秀な課題には1~2週間程度、船を利用させてくれるんです。2010年の航海では、新潟沖メタンガスハイドレート地帯の水深950mの海域においてTuna-Sandを潜航させ、AUVによるハイドレート地帯の精密画像観測に世界で初めて成功し、新聞やTVニュースでも大きく報じられました。また、その頃からJAMSTECの方々にはお会いしていて、ぜひここで働きたいと思っていました。

奥田 JAMSTECに入られたのはいつですか。

中谷 今から3年前。2011年のことです。中途採用に応募して採っていただきました。(つづく)


恩師に譲ってもらったロボット大賞の盾

 本文に紹介した「Tuna-Sand」がロボット大賞を受賞したのは2012年。当時、中谷さんはすでにJAMSTECに在籍していたが、恩師である浦教授は「君がもっていなさい。功労者は君だ」と花をもたせてくださったという。


じんべい (c)JAMSTEC

 中谷さんが開発を進めている自律型無人探査機「じんべい」

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