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2016/12/12 09:03

インタビュー

[週刊BCN 2016年12月05日付 Vol.1656 掲載]

自分にとって技術の世界は新しい情報や知見にふれられる楽しい場所です(下)
さくらインターネット 執行役員 技術本部 副本部長 エンジニア 江草陽太

 25歳の若さで、さくらインターネットの執行役員という重責を担う江草さんが優秀なエンジニアであることは自明のことだが、単なる理系の秀才にとどまらないことが、そのプロフィールや言葉の端々からよくわかる。学生時代から個人事業主としてシステム開発に携わり、いったん大学院に進むものの「仕事がしたい」と同社への就職を決意する。「単に技術を深掘りするだけでなく、それにより問題を解決できるから楽しい」と語る口調には、優しく穏やかな表情とは裏腹に力強さがみなぎっている。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・小林茂樹  写真・川嶋久人)

2016.8.17 /東京・新宿区のさくらインターネット東京支社にて

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

株式会社BCN 会長 奥田喜久男

<1000分の第173回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

「なぜ、そうなっているのか」が知的好奇心の源

奥田 江草さんが、技術を通じて実現したいことは何ですか。

江草 世界中のシステムの効率化です。手作業などで苦労して解決するのではなく、技術で解決できることはできるだけ技術で解決するということが大きな目標です。その目標のためだけに、仕事をしているといっても過言ではないくらいです。

奥田 そのほかには何かありますか。

江草 生活を豊かにするため、なるべくクリエイティブなことや楽しいことに時間を使えるようになればいいなと思っています。

奥田 世界のシステムの効率化というのは、省力化ですね。それによって便利になって、クリエイティブなことに時間を割けるようにしていこうと。

江草 そういうことです。

奥田 お会いしたばかりですが、江草さんは、知的好奇心が体内から湧いてくるようにみえてしょうがない。

江草 自分でもそういう感じです。

奥田 やはり自覚されているのですね。

江草 いろいろなもの事に対して、なぜそうなっているのかが無性に気になるんです。何か一つ気になることがあって調べると、それに付随して気になることが出てくる。ふだん生活しているなかでも、例えば仕事上のコミュニケーションでもプライベートのコミュニケーションでも、気になることが増えていって、知的好奇心がどんどん湧いてくるということの繰り返しになっている感じがします。

奥田 それはすごいなあ。ところで、2014年10月に入社されて、今年7月に執行役員に就任されました。2年足らずでこの役職に就かれたわけですが、具体的にはどんな役割なのですか。

江草 私の肩書は技術本部の副本部長ですが、技術本部には弊社のエンジニア全員が所属しています。役割分担としては、副本部長である私が技術をみて、本部長がマネジメントや組織をみるという形です。つまり私の仕事は、全社の技術の方針を考えたりメンバーと共有することですね。

奥田 年齢や社歴から、羨望のまなざしを感じることはありませんか。

江草 それはあまり感じないですね。技術力にすごく長けているエンジニアはたくさんいますが、そういう役職に就くのではなく、自分の担当するサービスに集中したいという人が多いので (笑)。

「江草さん、やりますか」
「やってもいいならやります」

奥田 とはいえ、どんなことが評価されてこの役職に就いたのだと思いますか。もちろん、技術は年齢や経験年数ではないと思いますが。

江草 社内には個々の技術について詳しい人はたくさんいますが、どの分野についても幅広く話ができるというところでは、私に強みがあると思います。

奥田 幅広いというのは、どういうことですか。

江草 例えば、電子回路の設計も組み込みソフトもできて、コンピュータのプログラムもわかるし、サーバーやデータベースもわかるというように、自社に必要な技術分野をおおむね全部カバーしているということですね。そういう人は、なかなかいないと思います。

奥田 どうして、そんなに横断的な知識があるのですか。

江草 小学生の頃からここまで、けっこう勉強する時間があったからだと思います。例えば、ネットワークやソフトウェア、電子回路などは、最初の基礎の部分を勉強して納得するのに時間がかかりますが、そこに時間を費やしたことが大きかったのでしょう。

奥田 ハンダ付けもやれば、コードも書くということですね。

江草 私が執行役員になったことと並行して、弊社では大きな組織改編がありました。これまでは事業部制をとっていたのですが、技術本部にエンジニア全員を集め、サービスはチームとして構成する形にしたのです。実は、去年の暮れから社長の田中(邦裕氏)に、こういう形にしたほうがいいと提案していました。サービスごとにコミュニケーションの分断が起き、技術の交流が行われなくなっていたからです。ただしそれを機能させるには、技術全体を見渡して、サービスの統合や棲み分けの方向性を決める人を置くべきだという話もしました。

奥田 じゃあ、それを提案した君がやれと。言い出しっぺがやれと?

江草 田中さんにそういう役職が必要なんですといったら、「江草さん、やりますか」。「やってもいいならやります」と答えました。

奥田 人事組織をつくるのは、電子回路をつくることに似た面はありますか。

江草 ポリシーを考えるというところで、電子回路よりソフトウェアの上流設計に近いですね。そのため、この提案自体も楽しかったですね。

奥田 IoTの時代を迎え、江草さんはこれからの市場をどう捉えていますか。

江草 これまで弊社のサーバーを使ってくださっているお客様は、自分たちでシステムを構築することができる、いわばIT寄りの人たちだったと思うんです。それがIoTによって、これまでITに無縁だった方々が新しいお客様になっていくと考えています。例えば、農業にもIoTが入って普及していき、ITからすごく遠くにいた人もIoTのなかに含まれてくることで、市場的には大きく広がるでしょう。農業といっても、JAの社内システムや農産物の流通システムでさくらのサービスを利用するところまではいまでもイメージできるのですが、個々の農家の情報がさくらインターネットにつながるということはいままで想像できませんでした。IoTによって、そういうことが起こるというのが大きな変化だと思います。

奥田 マーケットの広がりだけでなく、それによって江草さんの理想とするシステムの効率化が実現できるということですね。

江草 IoTは本当に新しいフィールドであり、新しい生活の価値を生み出すものになると思います。

奥田 今日はまたすごい人に会えました。ますますのご活躍を期待しています。

こぼれ話

 あれっ!今日の対談相手は女性だったか、と思い巡らした。名刺交換しながら、この人が新任執行役員の江草さんなんだ、と腑に落としてから話し始めた。対談の動機はさくらインターネットに25歳の執行役員が誕生したことだ。どんな人なのか、会ってみたいと思った。この会社は田中邦裕社長が舞鶴高専生の時に起業したベンチャー企業だ。とはいってもすでに20年経ち、上場してからも11年が経つ。

 これだけの社歴があれば、とうに組織には階層ができているだろう。それなのによくぞこの若い抜擢人事が決断できたものだ。田中さんはこの年齢の時には社長だったわけだから、25歳の執行役員人事にはなんの違和感もないのかもしれない。しかし、飛び級人事には多くの場合社内に軋轢が生じる。田中さんはそうした事象を知らないはずはない。それをあえて決断した理由は何か。「江草さんに会ってみたい」と田中さんにお願いした。


 対談当日、初対面の私は集合場所の会議室で江草さんを探した。広報の方から紹介された人に、あれっ!と意表を突かれた。雰囲気が女性だったからだ。ひと呼吸して対談を始めた。会話は徐々に深度を深め、「なるほど田中さんが決断するはずだ」と感じた。江草さんの話には年齢を超えた説得力がある。対談は時の過ぎるのを忘れさせた。また会ってみたいと思っている。

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