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2017/01/10 09:04

インタビュー

[週刊BCN 2017年01月02日付 Vol.1659 掲載]

自分を成長させてくれた 日立製作所に恩返しをしたい(上)
日立製作所 大みか事業所 上級監督者・工師 木村和弘

 「工師」と書いて「こうし」と読む。日立製作所が設けた技能系職種の最高位だ。名乗れるのは、全社で現在約10人。今回ご登場いただく木村さんはそのうちの一人である。いわば、日立製作所におけるものづくりの最高峰。どうしてもお会いしたい、お話が聞きたい。ようやく思いが叶った初冬のある日、眼前に太平洋が広がる日立製作所大みか事業所に、木村さんを訪ねた。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・浅井美江  写真・長谷川博一)

プロフィール

木村 和弘(きむら かずひろ)
 千葉県育ち。1975年、日立製作所入社と同時に日立工業専修学校電気科入学。1978年、大みか工場(現 大みか事業所)・計算制御制作課配属。装置製作グループ生産組長、部品製作グループ作業主任などを経て、2012年、グローバル生産改革グループ主任。同年、日立製作所、技能系職種での最高位「工師」に任用。技能者としての受賞も多く、11年、「現代の名工」(配電盤・制御盤組立・調整工)として、厚生労働大臣表彰。15年には制御盤組立工として黄綬褒章受章している。

2016.11.7/日立製作所 大みか事業所にて

1 大みか事業所の眼前に広がる太平洋。夏は多くの海水浴客でにぎわう
2 技能五輪国際大会では、多くの受賞者を輩出している
3 三段階ある上級専任職章バッジ。左から「工匠」「工師補」「工師」
4 整理整頓された事業所内を案内していただく

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

株式会社BCN 会長 奥田喜久男

<1000分の第175回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

「現場の神様」ともいわれる技能職最高の称号

奥田 さっそくですが、「工師」について教えていただけますか。

木村 日立製作所では通常の職位とは別に、「特称制度」という特例の制度を設けていまして、そのうち技能系職種の最高位にあたるのが「工師」なのです。称号は三段階あって、下から工匠、工師補、そして工師。現在全社で約10人が任用されています。

奥田 10人の分母はどのくらいになりますか。

木村 全社の技能系に携わる技能者は大変多く在籍していますが、その内の有資格者は2000~2500人くらいでしょうか。

奥田 もしかして役員より少ないとか。(笑)

木村 自分で言うのもなんですが、工師は、日立製作所では通称「現場の神様」とも言われています。神様はあまり多くは居ないのでしょう。

奥田 木村さんの衿で光っているのは工師のバッジですか。

木村 そうです。バッジは段階によって色が違うんですよ。工匠がシルバー、工師補がシルバーとゴールド、これ(工師)は全部ゴールドです。

奥田 上を目指したくなりますね。

木村 最初に工匠になってシルバーのバッジをいただいた時もうれしかったですね。日立製作所に認められたのかなという感じで。

奥田 おいくつの時ですか。

木村 工匠になったのは40歳の時です。工師補が47歳、工師になったのが4年前、52歳です。

奥田 工師に選ばれる基準はなんでしょう。

木村 高度な技量をもっているとか、後進の育成や社外での活動を通じて上司や部下、同僚から厚い信望があるなど、定義があるんです。

奥田 木村さんは認められたというわけですね。工師としてのお仕事を教えていただけますか。

木村 大みか事業所は1969年に設立されて以来、電力や交通システムなど、生活を支える社会インフラや鉄鋼・産業プラントの制御システムをつくっています。現在、ここで製造に関わっているのは約390人。私はその上級監督者として、製品を製作する管理技術、製造技術の開発と後輩の指導・育成を担当しています。

奥田 具体的にどのあたりの方になりますか。

木村 現場の責任者を束ねる「組長」の上に、「作業主任」という管理監督者がいるんですが、その作業主任より下の人たち、と思っています。

奥田 細かな指導をされるんですか。

木村 作業主任には助言はしますが、答えは言いません。彼らには彼らの考えや思いがありますから。でも、組長や会社に入って1、2年の若手の人たちにはいろいろ言いますし、できるだけ会話をするようにしています。

奥田 それはどのようにされるのですか。

木村 現場で一人ひとりを見るんです。もちろん全員は見られませんが、できるだけ見ます。いつも見ていると、顔つきが違う時があるんです。

奥田 その時はどうされるんでしょう。

木村 本人に必ず声をかけます。同時に、上長さんにも「ちょっと様子を見てみたら?」と伝えておきます。そうすると、やっぱり体調が悪かったり、家庭的な悩みごとがあったりするケースが多いですね。

奥田 人を見る術が備わっているのですね。

木村 私が作業主任になった時は、後輩が200人くらいいたんですが、1週間で全員と会話しようと決めたのです。その下の組長の時は40人だったので毎日みんなと話せましたが、200人と毎日は無理ですから、1週間と決めて実行していました。だから気づけるのかもしれません。

憧れの「オヤジ」がつくり出す強い組織

奥田 木村さんが仕事で大切にしておられることはなんですか。

木村 二つあります。一つは後輩の技量に合わせて育てることです。

奥田 “技量に合わせる”というところがポイントですか。

木村 大きな夢や高い目標をもつのはいいんです。それは重要なこと。でも、1年後、5年後、10年後はどうなっていたいのか、身近な結果目標をもってもらい、それに対して確実に向かっているかということが大切です。ただ掲げているだけでは達成できませんよね。達成するためにどうすればいいのか、それを考えてもらいます。

奥田 具体的に考えるということですね

木村 先週より今週、先月より今月、というように具体的に考えてもらう。ですが、なかなか思う通りに進まないのが現実です。いろいろ悩むことも出てきます。そんな時はいろんな形で接するようにして、アドバイスできるところはアドバイスしています。

奥田 それでも達成できない人もいますよね。

木村 たとえ目標に対して70%しか到達していなかったとしても、ほめるんです。「70%は成長できたね」と。試行錯誤を繰り返しながら、彼らが成長していると感じた時の喜びはひとしおです。

奥田 もう一つはなんでしょうか。

木村 コミュニケーションを大切にすることです。私が入社した時、日立製作所ではみんなが組長のことを「オヤジ」と呼んでいて、とにかくかっこよかったんです。怖かったけど、面倒見がよくて部下思いで、なんでも率先垂範で。人情味はあるし義理堅いし……。社会人としての常識や礼儀も徹底的に教えてもらいました。

奥田 組長さん全員がそうだったんですか。

木村 全員がかっこよかったですね。私たちの憧れであり、将来の目標としていた人物像でした。

奥田 その気風は続いているんでしょうか。

木村 少し薄れてきているところがあります。だから、組長ってこうあるべきだよね、とみんなに問いかけているんです。私たちが入社した時の組長ってかっこよかったよねと。時折、別の事業所で話をさせていただく機会があるのですが、そういう時にも「組長のこと、オヤジって呼んでましたよね。かっこよかったですよね」という話をしています。

奥田 昔のオヤジを取り戻そうと。

木村 そうですね。そういうオヤジたちに育ててもらったからこそ、私もそうありたいと思うんです。たとえ、親子ほど年齢が離れていたとしても、後輩たちに親近感をもってコミュニケーションを取ることで、活気ある職場が生まれ、強い組織に成長していけると思います。(つづく)

愛読の書と手づくりの作品

 木村さん愛読の書籍が並ぶ。本の前にちょこんとあるのは、木村さんの作品。曰く、「旅行の思い出の一つとして、旅先ではモノづくり体験して、自分の作品をつくって楽しんでいます。出来栄えはともかく愛着があります」とのこと。



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