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2017/01/30 09:03

インタビュー

[週刊BCN 2017年01月23日付 Vol.1662 掲載]

The Times They Are A-Changin'2017年 金融ITは守りから攻めへ(下)
セールスフォース・ドットコム セールスフォース・インダストリー本部 金融プロジェクト担当アドバイザー 富永 新

 「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……」と続く、井上ひさしの言葉がある。富永さんが扱う金融ITは、理解するには難しい側にある。ゆえに富永さんは伝えるために工夫を凝らす。前回、考えた“比喩”がボブ・ディランの歌詞と偶然同じだったという話をうかがったが、ふと、富永さんが金融ITを語ることは、富永さんの“音楽”なのかもしれないと思った。日本の金融ITをシャウトする富永さんのフォーク(歌)をどうぞお聴きください。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・浅井美江  写真・長谷川博一)

2016.10.19/セールスフォース・ドットコム会議室にて


心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

株式会社BCN 会長 奥田喜久男

<1000分の第176回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

金融機関に言いたいのは、「FinTech、飛びつく前にクラウドを」

奥田 講演などで「クラウドなくしてFinTechなし」を提唱されていますね。

富永 FinTech企業と、これに関心を持つすべての金融機関に対するメッセージです。

奥田 この意味をもう少しわかりやすく教えていただけますか。

富永 クラウドとFinTechって、ものすごく相性がいいんです。ほぼすべてのFinTechは、クラウドサービスを使って動いています。FinTechの七つ道具と私が呼んでいるのが、アイデア・ビジネスモデル・俊敏性・柔軟性・連携性・低価格、そして信頼性。これらを実現させながらビジネスを迅速に立ち上げるのに、クラウドは欠かせません。

奥田 ちなみに、七つ道具のうちSalesforceが強いのはどこですか。

富永 Salesforceは、俊敏性・連携性・信頼性がとくにすぐれていると思います。

奥田 こうして語る富永さんご自身の金融ITのプロとしてのバリューは何ですか。

富永 私の職務人生が、期せずして流れに乗ったわけですが、レガシー(汎用コンピュータ)からインターネットを経て、クラウド、FinTech、ブロックチェーン。この五世代に渡って、金融ITという世界を貫いて仕事ができていることが自分の価値かなと思っています。

奥田 このコンピュータシステム変遷の歴史を“比喩”で説明できますか?

富永 最近作ですが、レガシーが海(船)、クラウドが空(に浮かぶ雲:航空機)、FinTechが空を飛び交うジェット機、そしてブロックチェーンは宇宙(衛星)です。

奥田 なるほど、うまい喩えですね。五世代のうち、今の日本はどこが旬ですか。

富永 FinTechが花盛りの今、金融機関はクラウドを経ずして、FinTechに飛びつこうとしていますが、重要なのは、大切な顧客とつながる接点であるフロント系システムから大きく変革すること。顧客ニーズの変化に柔軟なシステムを構築し、顧客との関係を「個客」ニーズに合わせて築きあげ、サービスをスマートフォンなどあらゆるチャネルからリアルタイムで提供していくことにあると考えています。これを実現するにはレガシーでは不可能、クラウド、とくにSalesforceじゃないとできないんです。

奥田 それは、今の仕事上の我田引水ではなく。

富永 すべてがインターネットとクラウドとIoTでつながる時代に、金融だけが例外とはなりません。ジェット機がビュンビュン飛び交う時代に、相変わらず大きな船を建造しようとしている。時代遅れの自前主義やクローズドなシステム構造から転換する時期にきています。

奥田 航空機と船舶では、そもそもプラットフォームからして違いますね。

富永 時代は必ず変わるし、ITの常識もすでに変わっています。何年、何万人月といった膨大な時間とエネルギーを費やしてシステムを構築する時代は終わりました。船乗りがいきなりジェット機を操縦するのは無理がありますが、間をつなぐものが重要で、それがクラウドです。「啐啄同時」という禅の言葉がありますが、いよいよ金融機関も本格的にクラウドを使う時がきたと思いますよ。

奥田 文明って時々大きくジャンプすることがありますよね。中国のインフラは有線の時代をスキップして無線になったり。日本の金融機関でそういうことはないんでしょうか。

富永 日本がジャンプする時というのは、黒船とかのDisrupter(破壊者)が現れてジャンプさせられてしまうというか……。とにかく今、金融機関に大きな声で伝えたいのは「FinTech、飛びつく前にクラウドを」です。

奥田 それはいつから提唱しているんですか。

富永 今、つくりました(大笑)。

100%安全な技術や人生はおもしろくない

奥田 あと、言い残すことはありませんか(笑)

富永 かつて参画した政府の委員会で「IT、とりわけ先端技術や人生は、危うさと魅力が裏腹の関係にあり、100%安全な技術や人生はおもしろくない」と意見表明しました。

奥田 なんとも痛快ですね。

富永 日本の金融機関のなかにある「リスクゼロ」の無謬性信仰は、思考停止を招いています。金融機関が顧客を思う気持ちは間違っていたわけではありませんが、ちょっとずれてきたといえばよいでしょうか。例えば、1円でも合わなかったら全員が残って検証する。計算のためにシャッターを3時に閉める。でも顧客がそういうことを求めていたのかといえば、違うでしょう。

奥田 それは監督官庁による規制が厳しかったからですか。

富永 それもありますが、利用者の側にも責任があると思います。突き詰めていくと日本の生真面目な国民性ですかね。いろんな施策をそれに合わせてやってきてしまったことが現在の金融システムを形成しています。これからFinTechが本格的に始まった時に、果たして日本の国民性との相性はどうなのか、ということは問われていくかもしれません。

奥田 ブロックチェーンはいかがですか。

富永 これは将来が楽しみな期待のホープです。金融だけにとどまらず、既存のあらゆる産業と社会を劇的に変革する可能性があると思います。例えば、金融機関でいうと、店舗も人も必要とされない存在となる時代に、どう備えるか。もっといえば、現金すら要らなくなる時代にどう備えるのか。

奥田 現金がなくなるとは、デジタルカレンシーになるということでしょうか。

富永 私自身は、すでに現金を使わなくなっています。地域的な差はあるにせよ、多くのお店で電子マネーであるSuicaとかクレジットカードなどが使えます。個人の支払いだけでなく、飲み会の会費なども割り勘ができるソフトがありますよね。ビットコインなどのブロックチェーンには弱点があるという声もありますが、各メガバンクなどは競って実証実験を始めています。

奥田 例えば、三菱東京UFJ銀行が「MUFGコイン」を開発中のようですね。

富永 世界中の中央銀行、日本銀行も真剣に研究しています。私が中央銀行総裁だったら、他に取られる前に独自のものをつくってしまうかも。飲み込まれて消えてしまうよりは賢いかと。ただ、こう言いながら自己矛盾していると思うのは、そういう中央集権的なものが存在するとブロックチェーンじゃなくなってしまう。

奥田 中央集権とブロックチェーンは共存できない。

富永 対極なんです。中央集権という極北と、個々主権の極南なわけですから。

奥田 その自己矛盾については、ゆっくり考えていただくとして、最後に、2017年の金融ITについて、一言お願いします。

富永 金融機関はリスク管理よりIT戦略。守りから攻めに転じるべきです。クラウドとインターネットを活用してトランスフォーメーションを起こす必要がある。圧倒的なスピードで他社よりも先を走り、たとえ失敗して転んでも前に進み続ける姿勢が大切です。これから先、何が起こるのか、誰にも分りません。今年も激動の1年になるでしょう。何しろ、「時代は変わり」ますから。

奥田 またフォーク(お話)を聞かせてください。

こぼれ話

 「知識は力なり」という言葉がある。テレビのクイズ番組をみていると、確かに知識は力だと、納得して唸ってしまうことがある。記者になりたての頃の話だ。東芝のシステムエンジニアに取材した時のことだ。あまりの知識の豊富さに驚いたところ、その方が「私など手も足も出ない先輩がいる」とおっしゃる。聞けば、どうもゲーテの『ファウスト』全文を原語でそらんじるという。


 後日、ご本人に出会うことがあって確認したところ「いやぁ、そんなことありませんよ」とおっしゃるが、まんざらでもなさそうなので、知識の量というのは人さまざまで、その量は無限に近いのかもしれない、と思った。話は飛ぶが、稗田阿礼にとっては記憶すること自体は何でもないことであったのかもしれない。

 「知識は力なり」で驚いた第2話は富永新さんだ。初対面でのこと。いただいた名刺が日本銀行で、かつ日銀の人との名刺交換は初めてだったので、何だか私まで偉くなった気分がして心地よかった。その後、NY911をともに体験した。その翌日の早朝にマンハッタンからトロントまで大型バスで脱出し、帰国してから不思議な親しさで会う回数が増えると、フォークソングを語る富永節が延々と続くではないか。


 この知識と収集量は尋常ではない。私が日本一ではないか、というと「3本指ではないか」という。この対談を記念して、それまで使っていた青いウォークマンをいただいた。「苦節40年をかけて収集した2万曲」だ。せっかくいただいたので聴き込んだ。岡林信康「26ばんめの秋」、豊田勇造「私の上に降る雪は」、友部正人「38万キロ」、浜田省吾「AMERICA」、中川五郎「25年目のおっぱい」、早川義夫「グッバイ」、泣けてきちゃう。

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