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2017/02/27 09:03

インタビュー

[週刊BCN 2017年02月20日付 Vol.1666 掲載]

観客がクリエイターとなる映画をつくる(下)
映画監督 龍村 仁

 事務所のなかで話をうかがった後、新宿御苑での撮影となった。すでに日暮れ前、鈍色の空に雲が重い。樹々は雨に濡れ、緑がさらに深い。少し色味が欲しいなとクルーの誰もが感じたその時、監督が「マフラー巻こうか」と声をかけてくださった。レンズの向こうにいて、画面を確認されたわけではないのに。監督はさりげなく自ら色を足して、すんなり被写体に戻り、ポーズを決めていらした。プロのふるまいに舌を巻いた。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・浅井美江  写真・長谷川博一)

2016.11.11/龍村仁事務所・新宿御苑にて


心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

株式会社BCN 会長 奥田喜久男

<1000分の第178回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

稲盛さんが全重役を連れて観に来てくれた「第一番」

奥田 初期の頃の作品に、京セラの稲盛和夫さんのお名前がありますね。

龍村 最初のガイア、「第一番」をつくった時に、どこの映画館もやってくれなかったんです。たまに上映してくれるところがあると、僕が行って作品のエピソードとか話をしていたんです。するとすごく反応がある。これは、行って話した方がいいなと思っていた時に、たまたま京都の小さな映画館で上映してくれることになった。行ったら、僕が信頼している京都の方が稲盛さんとのご縁をつくってくれて。

奥田 そのときは、監督からアクションを起こされたんですか。

龍村 「こういう映画をつくったので観に来てください」と、招待券を2枚置いてきたの。でもあんなすごく忙しい人だから、たぶん来ないだろうなと思っていたら、初日の一番最初の上映に来ちゃったの、稲盛さん。しかも10何人の立派な紳士を引き連れて(笑)。

奥田 それはすごい。

龍村 あとで聞いたら、当時の京セラの重役全部だったんです。しかも、稲盛さんは終わって出てきた瞬間に「龍村さん、すごいいい映画をつくってくれてありがとう」って握手してくれて。

奥田 感激ですねえ。

龍村 それで、ひょっとして、次つくる可能性が。話をしたら、言われたんです。「自分はこういう映画をつくって金儲けしようとは絶対考えていない。この映画が採算が取れないはずがない。もし上映してもらえずに、採算が取れないんだったら、それは今の映画界のシステムがおかしい。だからそのシステムをちゃんと変えられると私に説明しなさい」とおっしゃったのです。

奥田 さすがKDDI(笑)

龍村 僕ね、これを聞いて、稲盛さんをすごく信頼したんです。それで友人にも手伝ってもらって、企画書やら予算表やらつくっていろいろ提案したんです。だけど、ひと目見ただけで「この経費はどうするんだ」「ここはどう考えてるんだ」とか。

奥田 厳しいダメ出しが出るわけですね。

龍村 出しても出してもダメなわけ。何回も突っ返されてね。一緒にやってたプロデューサーなんか、「結局出す気ないんだよ」って言ってたけど、僕は逆だった。これだけ否定するということは、本気でスポンサーになってくれる可能性があるなと感じた。

奥田 最終的に監督の読みが当たったということですか。

龍村 そうじゃなくて、交渉している間に、観てくれる人がどんどん増えて、自主上映の数字もどんどん上がっていったんです。それがみえてきた時に、「よしわかった。出そう」と言ってくれて、「第二番」をつくることになったんです。

わかち合いたいエネルギーを持っている人たち

奥田 全巻を通して拝見して、もう見事に監督と同質の方が出演されています。監督は出演される方をどうやって探すんですか。

龍村 探すということはやりません。設計図はない。どういう人に出会うかがすべてです。コンセプトから人を探すという回路はまったくありません。

奥田 ではどうやったらあんなに同質の人と出会えるんですか。

龍村 (笑いながら)それがね、直感とご縁です、としか言いようがないんです。たまたま何かのことで出会うわけです。もちろん書籍とか映像とか読んだり、観たりしますけど、僕はとにかく直接会って目を見るの。目を見て直感的にわかってから調べ始めたりね。だから“選んでる”んじゃなくて、“出会ってる”です。

奥田 目を見るのはどうしてですか。

龍村 わかっちゃうんですよ! その人の深層が。これははっきり言っちゃうけど、書いてるものがどんなにすごくても、会った瞬間「あ、違うな」というのはわかります。それはね、目なんだよ。どういう目って説明しろと言われても難しいけど、目にはね、出ますから。

奥田 目を見る以外に、監督が感じていらっしゃることはありますか。

龍村 これまでお会いして、出ていただいたなかで、自分の体験したことを教えてやろうという人は一人もいませんね。皆さん、教えるんじゃなくて“わかち合いたい”と思ってるんです。

奥田 いい言葉ですねえ。そのなかには、ダライ・ラマ14世も含まれているんですよね。

龍村 もちろんです。ダライ・ラマもそうだし、亡くなった星野道夫やジャック・マイヨールもそうです。誰が聞いても、すごいことをやったという人たちが出演してくれていますが、その根底には「わかち合いたい」というエネルギーがあるだけで、「俺はどうだ」と主張したり、「自分の知っていることはおもしろいだろう、教えてやろう」というような人は一人もいません。

奥田 出演される人は、直感とご縁で出会う。では、構成を考えられる時のシナリオはどうやってつくられるんですか。

龍村 シナリオは一切書きません。コンセプトみたいなものは書けなくもないですけど、シナリオは一切書かない。出たとこ勝負みたいなんだけど、実はその瞬間の出会いによって、初めて生まれてくるようなものがものすごくて……。

奥田 力をもっている。

龍村 その通り。龍村仁がさ、前もってイメージしたものを形にして、とか全然ないわけです。だけど、その瞬間の出会いのなかで生まれてくるものというのはものすごくあって、それが本当に大事です。

奥田 とても共鳴します。同感です。その力はすごいですよね。監督の作品を通して観ていて、例えば1枚の落ち葉が川を流れるシーンとか、何にも説明がないのに、すっと心に入ってきて、ああ、おもしろいなあ、すごいなと思うことがありました。

龍村 それはすごく感受性のある反応でうれしいですね。同じ作品でもたぶん1回目と2回目で全然違うと思います。それはあなた自身が生きてるからね。生きてる人は必ず同じ自分であると同時に、その時その時で違いますから。映画が何かを与えるのではなく、観ている人がクリエイターとなって、映画との間にクリエイションが生まれて双方向に何かが通じる。そんな風になってくださるようにと願っています。

奥田 今日は本当にありがとうございました。

龍村 いやいや。なんか楽しくてしゃべりすぎちゃった(笑)。

こぼれ話

『地球交響曲第一番』ってごぞんじですか。知らない人には音楽のように聞こえますよね。実は映画なのです。龍村仁監督、初公開は1992年。当時のコンピュータ業界はIBMが肩で風を切っていた。そのなかにあって、ケン・オルセンという技術者が1957年に創業した技術集団でトンガったミニコンの会社にDECがあった。IBMはBig Blue、DECのことはSmall Blueといわれるほど勢いがあった。


 こうしたことを日本DECの広報にいた国実真由美さんからレクチャーを受けた。DECマシンと国実さんのカッコよさがシンクロしていたのだから、取材回数は自ずと増えた。ある時「地球交響曲ってご覧になりましたか」と聞かれ、いつの日か観ようと記憶の底にしまい込んだ。昨年、『千人回峰』に登場していただいたバイオリンドクターの中澤宗幸さんから、「『地球交響曲』の龍村仁監督とトークショーをする。映画に出た」という連絡を受けた。

 突然、かつての記憶が蘇り『地球交響曲第八番』を観に出かけた。映写後、入場口で全巻を購入し、会場で中澤さんに龍村さんとの橋渡し役をお願いした。いくつかのやり取りをして、監督に『千人回峰』の対談をお願いした。一瞬私の目の奥をグッとにらんで「いいよ」と。『地球交響曲』は自然という縦糸と人の横糸を編み込んだ帯のような作品だ。言葉数の少ない映像の合間に自然のカットが流れ、それがコンテンツとシンクロしてガイアシンフォニーが響き渡る。「筋書き、そんなのないよぉ~。登場人物、出会いだょ~。目だよ目……」

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