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2012/01/12 09:26

インタビュー

[週刊BCN 2012年01月09日付 Vol.1414 掲載]

慶應大学の名物教授に聞く(上) 「参加」「競争」が新しい発見のキーワード
慶應義塾大学環境情報学部教授 武藤 佳恭

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 世界の企業が行列をつくるという武藤教授の研究室。東日本大震災のあの激しい揺れにも、なぜが本一冊も落ちなかったという壁面の書棚。床にはこまごまとしたモノが所狭しと置かれている。格別高価そうなものは見当たらない。しかし、ここから、世界が注目する知恵の結晶が生み出されているのだ。目の前で繰り広げられる驚きの実験の数々。こんこんと湧き出るアイデアの源泉はどこにあるのか。独自の視点から、“ものづくり”へのこだわり、そして日本の学生、日本の将来など多岐にわたって論を展開していただいた。新春特別編として前・後編の二回に分けて紹介する。(本紙主幹・奥田喜久男/構成・谷口 一)

Profile

武藤 佳恭(たけふじ よしやす)
1955年長崎県生まれ。慶応義塾大学で工学博士号を取得後、渡米。米国サウスフロリダ大学、サウスキャロライナ大学で教員として勤務。1991年、36才でケースウエスタンリザーブ大学で終身雇用(tenured)契約を取得。専門分野は、ニューラルコンピューティング、セキュリティなど。帰国後、世界初の携帯電話のカメラ、お札鑑別機、床発電、温泉や廃熱利用の温度差発電など数々を発明し、世に出す。慶應義塾大学環境情報学部教授。

2011.10.19 / 慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスの武藤研究室にて

若い才能は世界のトップレベル

 奥田 先日、テレビで先生のことを拝見いたしました。先生は体温で発電する仕組みや温泉での温度差発電、JR東京駅の改札口で実験が行われた“人が歩けば電気が発生する”という発電床など、ユニークな発明・ものづくりで、超がつくほど有名でいらっしゃいます。まず、先生の“ものづくり”に対するこだわり、そして考え方についてお聞かせいただけますか。

 武藤 「“ものづくり”へのこだわり」こそが、一番大事なんですよ。それを今やらなくなってきているのが、日本の大企業です。だから、どんどん“ものづくり”の力を落としている。実際に僕と議論できる技術者がいなくなってきた。寂しい話ですよ。

 奥田 そこのところをもう少し詳細にお話しいただけますか。

 武藤 すべてアウトソーシングで、自分でやらない。スペックさえも外に出しちゃって。だから議論もできないんです。今売れているスマートフォンについても、僕が「ここのところが難しいよね」って言っても、メーカーの人は理解できません。自分ではやらないのだから。

 奥田 先生の場合は、すべてご自身でものづくりをされるのですか。

 武藤 ハードウェアからOS、アプリケーション、ファームウェア、何でも自分でやります。基本的には、どんなものでも一週間あればプロトタイプの製品ができあがります。

 奥田 先生は何か特別の存在のような気がしますが、今の学生はどうなんでしょう。

 武藤 ものすごく優秀な学生が集まってきますよ。世界大会に招待されて出ていくような学生が何人かいます。僕の研究所には十数人しか学生が在籍していないのに、そのうちの数人はめちゃくちゃ優秀で、世界のトップレベルの能力をもっています。

 奥田 そんな優秀な学生を輩出するために、どういうふうに教え込んでおられますか。

 武藤 いや、教え込むという感じではありません。やる気があるから、自分でがんがんやっていく。だから、僕なんか左ウチワです。

 奥田 そういう子どもたちが集まって大学や専門学校で学び、やがて日本の企業に就職しますよね。そういう優秀な子が多いのに、なぜ日本の企業は、ものづくりに弱くなったのですか。

 武藤 ビジネスと技術は別じゃないですか。これをつなぎ合わせるところがうまくいっていないんですよ。要するに、社長をはじめとする経営層がきちんと理解していないことに原因があるのですね。

 奥田 具体的に、メーカーの経営層は何を理解していないのですか。

 武藤 技術の面白さとか将来への発展性を感じ、それをきちんと理解することです。役員というのは、往々にして、新しい商品を自分たちで使っていないことが多い。だから理解していないし、センスがある人も少ない。だけど、日本の会社というのはそういう人たちが判断し、運営する。そんな状態がずっと続いていますね。

 奥田 とはいっても、ものづくりができる優秀な子どもたちは確実にいることは間違いないとみていいのですね。

 武藤 たくさんいますよ。僕はアメリカも知っていますけど、日本は間違いなく世界レベルです。学生の能力は、断然高いですよ。

 奥田 それをうかがって、安心しました。

“目利き”をスポイルする減点主義

 奥田 日本が弱くなってしまった要因については、どのように分析しておられるのでしょうか。

 武藤 日本が衰弱している要因の一つは、僕の分野でいえば、大企業がサイバーの市場に気づいていなかったということですね。

 奥田 サイバーの市場というのは、具体的にはどういう市場なのでしょうか。

 武藤 アップルでいえば、Appストアです。あのストアの売り上げが今年、1兆円を超えます。あれは市場であり、場なんです。アップルはほとんど何もつくっていない。他社がつくっているのですね。場を提供して利益をシェアする仕組みです。フェイスブックもグーグルも場である、と。この市場に気づいた人が、今、成功しているんですよ。

 奥田 確かにそうですね。場というのはキーワードだと思います。そのほかには?

 武藤 ものづくりをしなくなった企業は、最新の技術動向がつかめていない。頭のいい子はいっぱいいます。でも、上が指示を出せない。基本的に大企業は事なかれ主義なので、部下が新しいことを提案しても、「大丈夫なのか? いくら稼げるんだ」というような、くだらない質問しかしない傾向があります。そこで潰されてしまう。やってみて、初めてわかるものじゃないですか。アップルだって最初から莫大な利益を稼げることがわかってるわけではなかったはずですよ。

 奥田 大切なのは、それでも挑戦するという企業のポリシーでしょうか。ソニーをはじめ、昔は日本のメーカーもそういうチャレンジ精神をもっていたのでは?

 武藤 そうですね。昔はあったと思います。チャレンジ精神を失っただけでなく、企業の減点主義、これは最悪です。減点主義が蔓延して、目利きが確実にいなくなった。

「貧乏ゆすり発電」は参加型

 奥田 厳しい現実があるなかで、先生は世の中のトレンドをどのように捉えておられるのでしょうか。

 武藤 トレンドなんか、まったくみていませんよ。自分がやりたいことをやっていて、世の中が勝手についてきているわけです。今はエネルギー問題が脚光を浴びて、僕が試みてきた体温発電や熱海温泉の温度差発電なんかが話題になっています。

 奥田 エコブームですしね。

 武藤 実は、僕はエコにはあまり興味をもっていません。今、やろうとしている「貧乏ゆすり発電」もエコといえばエコなんですけれど……。貧乏ゆすりの競技会、世界大会をやろうと思っているところです。

 奥田 「貧乏ゆすり発電」のワールドカップですか。面白いですね。

 武藤 こういう面白いことを知恵を絞ってやればいいんです。これって、技術的にいうと参加型になります。貧乏ゆすり発電は、参加型で、しかも競争です。何秒で何ボルトに到達したかというようなね。参加・競争型だからこそ人気が出ます。

 奥田 Appストアも参加型ですね。

 武藤 ネットゲームが伸びているのもそれなんです。「参加」「競争」が新しい発見のキーワードなのです。

 奥田 次回は先生の知恵を具現化した“ものづくり”の具体例や、日本再生のシナリオなどをお聞かせください。

・近日掲載予定の(下)に続く

アルゴリズム好きが愛読していた『bit』


20年前、日本で最初に雑誌『bit』でインターネットを一般の読者に紹介したのが武藤先生だ。今は小学生でもネットを使う。先生の功績は大きい。


インタビューこぼれ話


「貧乏ゆすり発電を説明します。まず椅子に座る。片足をつま先におく。膝の上に、板が上下するカスタネットのような装置を置く。準備完了です。スタート!」。貧乏ゆすりが速くなるにつれて豆電球が明るく光る。「奥田さん、やってみませんか」と武藤先生。 (奥田)
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