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2012/03/22 09:23

インタビュー

[週刊BCN 2012年03月19日付 Vol.1424 掲載]

日本発のデファクトスタンダードをつかむ
京都大学大学院情報学研究科 准教授 モバイルソーシャライズシステムフォーラム(MSSF)会長 新熊 亮一

 若い研究者に会うのは楽しい。研究の鋭さに感動するだけではなく、未来にわくわくする希望を与えてくれるからだ。ひたむきさのなかに熱い思いをひしひしと感じる。今にも地上に噴き出そうとするマグマのようだ。京都大学の新熊准教授には、知人の紹介で会うことができた。ITの将来に希望の明かりを照らしてくれる人との出会いに感謝したい。日本にはまだまだ有能な人材がいる。頼もしいかぎりだ。(本紙主幹・奥田喜久男/構成・谷口 一)

Profile

新熊 亮一(しんくま りょういち)
1976年10月3日、大阪生まれ。大阪大学で博士号(工学)を2年短縮して取得。2003年4月より京都大学教員。2011年9月に代表発起人として産業フォーラム「モバイルソーシャライズシステムフォーラム」を設立、現会長。無線、インターネット、データベース、アプリケーションなど、対象を問わず、人と相互の関係に着目したアプローチでシステム設計を行う。産学共同研究開発の実績多数。

2012.1.26/千代田区内神田のBCNオフィスにて

“何となく”感に応える辞典アプリ

 奥田 先生の新しい情報システムから生まれたアプリケーションを紹介してください。

 新熊 そうですね。これは今までにはない辞典です。従来、辞典や辞書というと、「あ」や「A」から規則正しく並んだものです。何かわからない言葉があったら、それをインデックスで探し、行き着くと定義とか意味が書いてあり、それで終わりというものが普通です。しかし、このアプリは、気になった言葉があったとき、その言葉に関係する周辺のことまでが表示されるようになっています。

 奥田 例を挙げて説明していただけますか。

 新熊 例えば、“港区”と入れると、港区の概要・人口・沿革などが出てくるのが今までの辞典・辞書ですが、このアプリでは、そういったことだけではなく“港区”に関係する施設や会社や人物などまでが関係性をもって一つの画面に出てきます。

 奥田 拝見すると、まるで星座のように関係する言葉が配置されるのですね。

 新熊 そうですね。頭に浮かんでいなかった言葉までが関連性をもって出てきたりします。ですから、「へぇ! この言葉はこんなことにも関係していたのか」という“気づき”を与えてくれます。だから、それに触発されて、さらに探究心が湧いてくるという効果もあります。もちろん、複数の言葉からも抽出することができます。予想もしなかったものが出てきたり、こういう方向もあるのだというような広がりに気づいたりもする。脳のあいまいさに応えてくれるわけです。

 奥田 たしかに、今までの検索とはまったく異なる道筋をたどるわけですね。

 新熊 そういうことです。

 奥田 どんな仕組みなのでしょうか。

 新熊 簡単にいいますと、データベースに蓄積している情報を、アルゴリズムを使って関係性を構築し、通信でインターネットから取ってくる、ということです。関係性をつくっていくときに、言葉の一つひとつを評価して、これとこれは関係するとか、関係していればつなぐというように、すべてネットワークのつながりで判断しています。言葉の重要度もそこで判断します。

 奥田 このアプリに入っている基本になる情報はどのくらいの数でしょうか。

 新熊 100万語近くです。それらが相互に、どれとどれが関係しているかという組み合わせを構築しているわけです。それを瞬時にアプリで表現しています。

“気づき”で生活を豊かにする

 奥田 100万近くの言葉の関係性を構築するアルゴリズムというのは、相当複雑なものなのでしょうね。

 新熊 そうですね。関係性のネットワークの広がりのなかで、今、ここが重要だとか、これとこれに関係するのはここあたりだとか、そういうものをみつけていかなくてはいけない。だから、従来の単純にキーワードが含まれているものを探すようなものとは違います。ネットワークの分析アルゴリズムです。

 奥田 それはグーグルの検索とは全然違う方式ですか。

 新熊 違います。もちろんグーグルにもいろんな工夫がされていて、一概にこういうものだとはいえないのですが、例えば、従来のアルゴリズムには、「and」と「or」というのがあって、「and」というのは、AとBを含んでいるもので、「or」は、どちらでもいいわけです。「and」だと完全に共通項だけで、広がりがないし、「or」だと関係ないものも出てきて役に立たない。このアプリは、言葉を含んでいる、いないではなく、言葉と言葉の関係性からそれらの中間や周辺にあるものを抽出できます。

 奥田 グーグルの検索は“調べる”で、新熊先生のは、“気づき”“発見”なのですね。

 新熊 ただ、言っておきたいのは、グーグルは使えないのではなくて、このアプリだと、まったく違うことが発見できるので、共存できるのです。例えば、調べものをしたいと、はっきりしたイメージがある場合にはグーグル検索が適していますし、私のシステムなら、何を調べればいいかわからないとか、今日、何をしたいかわからないとか、そういうときに使えばいいと思います。

 奥田 検索というイメージが従来とは違いますね。将来的には、どういうふうに発展していくのでしょうか。

 新熊 このアプリは、使ったこと自体もインプットしていきます。

 奥田 学習機能ですね。

 新熊 今はオンラインにあるインターネット情報から関係性をつくっているのですが、私が会長を務めている「モバイルソーシャライズシステムフォーラム」では、人の行動を観測し、そのなかからさまざまな情報を取り出して、そこから関係性を構築していく研究も進んでいます。ですから、私に関わる情報から関係性を構築していけば、私が気づいてない自分自身がそこに再現される可能性もあるわけです。

 奥田 非常におもしろいですね。

 新熊 そういう仕組みを使えば、「何でうまく言えないのだろうか」とか「何でわからないのだろうか」、そういったことも解消され、個人の生活が豊かになることをお手伝いできるのではないかと考えています。このアプリの先にあるものはそこだと思っています。

 奥田 新熊先生のシステムは、人の内面まで入り込んでいけるのですね。

 新熊 今はブラウザを開けば検索窓が表示されて、そこに文字を入れるのがあたりまえの方法ですが、そこを変えたいという思いもあります。パソコンや端末を開くと関係性の画面が出てくる、それが一般に普及して、デファクトスタンダードになれば、私にとっては望外の喜びですね。開けば、自分の考案した画面が現れる。ビル・ゲイツ氏もスティーブ・ジョブズ氏もグーグル創業者のお二人も、その喜びを感じているのでしょうね。それに近いものを目指したいです。

 奥田 その快感ですね。ぜひ、つかんでください。新熊先生の研究はさまざまな分野に発展していきそうですね。応援しています。

“いもづる式”辞典アプリ


キーワードを一つ入れれば、それに関連するキーワードが画面に散りばめられる。まるで星座のようだ。言葉から言葉へ、文字通り“いもづる式”に知の世界が広がっていく。見えなかった自分の思考を引き出してくれるアプリだ。

※このアプリは、アプリ・スマート (発案者)、国立大学法人京都大学、神戸デジタル・ラボの共同開発によって誕生した


インタビューこぼれ話


新熊先生の話をじっと聞く。なんだか似たサイトがあるぞ。「あのひと検索スパイシー」だ。このアプリで検索した私の全友人のヒット率は2割そこそこ。私の人脈は、大塚実さんと細野昭雄さんとつながっている。予想外の人ではない。新熊先生のアプリのヒット率が高まると面白いと思う。(奥田)

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