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2012/06/21 09:31

インタビュー

[週刊BCN 2012年06月18日付 Vol.1436 掲載]

「グローバリゼーション」が「アメリカナイゼーション」であってもいい
村上憲郎事務所代表(元グーグル 社長) 村上 憲郎

 村上さんが、日本DECからアメリカ本社へ行かれる折にインタビューさせてもらった記憶がある。いまだに鮮明に覚えているのは「奥田さん、日本の共通語は英語にしたほうがいい。オレ、本当にそう思ってるんだよ」というフレーズである。大胆でかつ変わった人だと思った。その後、グーグルをはじめとする外資系企業の経営者を歴任され、いろいろな情報発信に触れるうちに、村上さんにお会いしたいと念じていたら、はからずもFacebook上で「村上憲郎」のお名前を見つけることができた。(本紙主幹・奥田喜久男/構成・小林 茂樹/写真・津島隆雄)

Profile

村上 憲郎(むらかみ のりお)
1947年3月大分県佐伯市生まれ。佐伯鶴城高校を経て京都大学工学部資源工学科卒業。日立電子でミニコンのSEとしてキャリアをスタート。その後、日本DEC、米国DEC本社勤務を経て、インフォミックス、ノーザンテレコムジャパン、ノーテルネットワークス、ドーセント日本法人の社長を歴任する。2003年4月グーグル米国本社副社長兼日本法人代表取締役社長に就任。09年1月、名誉会長。11年1月、グーグルを退任し、村上憲郎事務所を設立。

2012.5.9/東京・港区のアークヒルズクラブにて

ボーダレスの世界に近づいていく

奥田 お久しぶりです。グーグルの日本法人の社長を退任されたきっかけはご病気だとうかがいましたが、すっかりお元気になられたようですね。

村上 2008年の8月に死にかけました。20万人に1人という難病でしたが、おかげさまで奇跡的に治ったんです。

奥田 そうでしたか。生死の境をくぐってみて、心境は変わりましたか。

村上 どうでしょう。学生時代、京大熊野寮や日比谷の野外音楽堂で、お巡りさんや敵対する党派とのゲバルトで死にかけた経験がありますから、ちょっとやそっとでは(笑)。

奥田 学生運動ですね。その頃のような熱い思いが、最近の言動に現れていますね。

村上 マルクス主義革命は挫折しましたが、世の中を少しでもよくしたいという志は変わりません。それは、ビジネスの世界でもそうです。私はアメリカのIT産業に長くかかわっていて、いわばアメリカの手先をやっていたわけですが、日本になんらかの貢献ができたとすれば、「アメリカの方向性はこうだから、日本もそれに後れをとるな」と発信してきたことだと思います。アメリカに比べて日本のIT産業はいつも5年後れですが、その差を少しでも縮めたいと思ってきたんですよ。

奥田 村上さんの発言を追っていて、長い文明史のなかで、今、われわれはどこにいるかという本質的な位置について一度うかがいたいと思っていました。

村上 文明史なんておこがましくて語れませんが、あえて語るとしたら、やはりインターネットが今を象徴していると思います。インターネットの特性である「グローバル」ということは「ボーダレス」という言葉に置き換えられます。つまり、国境の意味が薄れて「国民国家」というくくりが溶解し始めるときと捉えることができます。そのボーダレスな状況のなかで、いかにフェアな競争を実現できるかが、一つのカギになるでしょう。

 最近感じるのは、物ごとを中央集権的なかたちで計画し、方向性を定めるやり方がうまくいかなくなってきているということです。それは人類の驕りであり、エポックな事象は、自然な変化の流れのなかで起こるものだと思います。

奥田 「グローバリゼーションは、結局はアメリカナイゼーションじゃないか」という批判をよく聞きます。

村上 それはその通りなんです。ただアメリカが強いのは、自由主義・民主主義・資本主義という理念があって、その理念に磐石の自信をもっていることです。今後グローバリゼーションが進むことでしょうが、それがアメリカナイゼーションであってもかまわないのではないかと、“アメリカかぶれ”の私は思います。学生の頃は「アメリカ帝国主義反対!」だったんですが……(笑)。

スマートテレビとスマートグリッド

奥田 2006年、グーグルはYouTubeを買収。その意思決定には参画されましたか。

村上 いや、全然。金曜日に発表されたのですが、土日は電話が鳴りっぱなしでした。当時、グーグルビデオというのをやっていてYouTubeは競争相手。日本では、YouTubeを叩くための陣営をつくろうとしていた矢先でしたから、関係各方面から「おまえ、どうなっとるんや」と責められて、「すみません、本社に聞いてみます」と(笑)。

 その当時、YouTubeへの違法アップロードが問題になっていたので、私はすぐにアメリカに飛んで、YouTubeの創業者であるチャド・ハーリーとスティーブ・チェンに面会を求めました。すると、意外なことに、彼らは、これは意図したことではなく、ぜひとも解決したいという誠実な姿勢をみせたのです。そこですぐ日本へ呼んで、放送関係者など迷惑をかけた方々に謝らせるとともに、違法アップロードを自動的に削除するシステムをつくることを約束させました。あわせて、自分たちはテレビが主役の時代は終わりつつあると認識しているということについても率直に伝えなさいと指示しました。日本に来るにあたって、背広一着、ネクタイ一本をわざわざ買って着て来た少年のような彼らが懸命に伝える姿は好意をもって受け止められましたが、ネットテレビ的な提案までは受け入れられませんでした。YouTubeを使えば、今年ようやく始まったMOTTVやNOTTVなどはもっと早い時期に実現できたと思いますね。

奥田 今後、開発が激化しそうなスマートテレビでは、何がキーになるのでしょうか。

村上 日本には、「国際標準をとりさえすれば、何とかなる」という伝統的な発想があります。プラットフォーム、つまりハードウェアやOSのことばかり気にする傾向が強いのですが、それはさしたる問題ではありません。ここでキーになるのは、アプリケーションとコンテンツなのです。「おもしろくないテレビをおもしろいテレビに変えるんだ」という若者たちの熱狂感、ワクワク感を醸成しない限り、壮大なゼロの集積しか生みません。

 このあいだも京大の学生たちに会って、あなたたちはスタンフォードやハーバードの学生に負けないように、私がつくったような火炎瓶じゃなくて、スマートテレビのアプリやIoT(Internet of Things)のアプリをどんどんつくりなさいと焚きつけてきました。「負けるな、勝てば7兆円だぞ」と(笑)。

エネルギー問題は電力需要の平準化で解決

奥田 さて、昨年の東日本大震災でエネルギー問題がクローズアップされています。

村上 日立電子時代に、福島原発の振動試験に携わった経験があります。グーグルの名誉会長になった後、たまたまスマートグリッド(次世代送電網)のエバンジェリストを務めました。社会人の最初に電力に少し関わり、最後にまたスマートグリッドで電力……。何とも縁の深いことだと思っていたら、3.11の原発事故が起こってしまいました。そこでアメリカの知人に策を求めたら、「ノリオ、電気が足りないときはデマンド・レスポンス(DR)というのをやるんだよ」と教えてくれました。カリフォルニアの大停電を機に生み出された手法で、日本のように電力のピーク需要を死守するのではなく、平準化させるわけです。電力需要が平準化されていれば、発電容量が2割減ぐらいになっても需要に応えることができ、電気代も安くなる。

 それを経産省の産業構造審議会で説明すると、この際日本もDRを始めようということになって、第三次補正で300億円の予算がつきました。いち早いDRの導入もあって、東電管内は福島原発や柏崎刈羽原発がすべて停止していても、今夏は乗り切れる見込みになっています。ところが、関西電力は電力不足を理由に大飯原発の再開をもくろんでいますが、計画書を見るとDRのデの字も出てきていません。公の席でDRについて言い続けてきた者の責任として、この矛盾については政府や関電に対してはっきりと指摘する義務があると思っています。

奥田 それは心強いです。今現在も大きな問題に取り組んでおられますが、村上さんにとって将来の夢は何でしょうか。

村上 リアルな世界に生きるわれわれは、生身のからだの上にしか意識体を存在させられません。でも人工知能を研究していた私の夢は「永遠に生きるぞ」ということ。だから、シリコンの上に転移して、合祀されるということになる(笑)。

奥田 うーん、さすがです。おもしろい!

・Facebookでこまめに情報発信


 最初はツイッターで発信し、その後はFacebookでやりとりするのが村上さんのスタイル。「Facebookはよくわからんのですよ。今度、シェリル・サンドバーグに会ったら聞かなきゃならんな」と苦笑まじりでつぶやく。


・インタビューこぼれ話


 才長けて、思いは地球を駆け巡り、熱情はマグマの如くほとばしる。自らの理念を伝えるときには常に噛み砕いて話し、笑いを交えて語る姿勢は初対面の三十数年前と変わらない。きっと「ノリオさん」はどこで何をしていても、ファンを増やす人に違いない。(奥田)

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