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2012/09/27 09:14

インタビュー

[週刊BCN 2012年09月24日付 Vol.1449 掲載]

いつも「創新」 常に新しいものにチャレンジする
芝ソフト 代表取締役 魏 芝

 先日、魏芝さんの故郷の成都でご夫君の王健さんと一緒に、道教のお寺のある青城山に登った。ソフト会社で辣腕をふるう起業家には見えない、落ち着いた雰囲気を漂わせる魏さんは、ずいぶん熱心にお参りをしておられた。普段の顔と経営者の顔、その差はどこにあるのかと、興味を抱いた。(本紙主幹・奥田喜久男/構成・小林茂樹/写真・横関一浩)

Profile

魏 芝(Wei Zhi)
四川省成都市生まれ。成都の電子科技大学を卒業した後、中央政府機関で通信分野の教師を務める。88年に来日。日本企業にSEとして勤務し、ソフトウェア開発に従事。97年、芝ソフト株式会社を設立、以来代表取締役に就任。

2012.8.8/東京・千代田区内神田のBCNオフィスにて

日本に学びたいという想いで起業

奥田 魏さんは、芝ソフトの社長として、現在、上海と東京を忙しく往復しておられるようですが、最初はどんなきっかけで、日本と関わるようになったのですか。

 私は成都の電子科技大学を卒業して、北京の中央政府機関でITの教師を務めていたのですが、当時、中国政府と日本政府の間で日中青年交流センターをつくるプロジェクトがあって、そこで中国在住の日本人と知り合ったのがきっかけです。

奥田 ほう、政府機関でITの先生ですか。ITといっても当時と今ではだいぶ様相が違うと思いますが、どんな分野について教えておられましたか。

 通信関連ですね。私が卒業した電子科技大学は工学系の大学ですが、そこで通信を学びました。卒業してから約3年間、北京で教師を務めました。教え子は学生ではなく、政府部門にすでに勤められている方々です。知識を更新するためで、中国全土の政府部門から選抜されて北京に集めてきたわけです。

奥田 その後、来日されたわけですが、なぜ日本に来ようと思ったのですか。

 中国からみると、当時の日本はたいへんにすぐれた先進国というイメージがあって、「日本に学びたい、日本に行ってみたい」という気持ちが強かったのです。また、知り合った日本人の友人の紹介もあって。この友人は、ものすごく人脈の広い方で、当時の周恩来や・小平とも親しい関係にありました。

奥田 日本に来る前と来日してからでは、イメージが変わりましたか。

 日本に来る前は、先進的な国だと思っていましたが、実際には非常に伝統を重んじる社会であることにびっくりしました。ひと昔前の中国にあったような人との接し方や文書の書き方など、今や古臭いと捨てられてしまったことが日本ではきちんと守られていることに驚きました。

奥田 東京に来て、最初はどんな動きをされたのですか。

 日本語学校に3か月通い、その後、日本のIT会社にSEとして入社しました。

奥田 ということは、日本企業のソフトウェアを開発したということですか。

 そうですね。中国にいたころはソフトをいじった経験はあまりなかったのですが、日本に来てから勉強して、ソフト開発に携わるようになりました。

奥田 そして、いよいよ会社を設立するわけですね。

 97年に最初の会社、株式会社芝(現在は芝ソフト株式会社と名称変更)を設立しました。この会社の設立趣旨は日中交流であり、そのなかにはIT交流、スポーツ・カルチャー交流、健康交流の三つの事業が含まれています。これらの事業については現在までずっと続けてきています。ITについては、今の芝ソフトで継承しています。その他の事業は、別会社を設立して継承しています。

 当時、中国では国営企業を改革するために、盛んに人的交流、経済交流を行っており、私はそのお手伝いとして、日本企業の方々を中国に案内したり、中国企業のCFOクラスを日本での研修に参加してもらうためのイベントを企画したりしました。また、NEC、日立製作所、野村総合研究所など日本の大手IT会社も、コスト削減のために中国で生産する動きが本格化しており、それがご縁で仕事をいただいたという経緯があります。そのため、上海に開発センターをつくりました。現在は、上海芝遠ビジネス・コンサルティング株式会社(上海芝遠商務諮洵有限公司)という名称ですが、上海においては最も早くオフショア開発企業としてスタートした会社です。

奥田 当時のオフショア開発は順調に進みましたか。

 実は、当初は今よりも順調でした。というのは、オフショアをやる企業が少ないので、いきなり大きな銀行向けの人事給与システムの要件定義からやらせてくれたからです。当社から十数名ほどの中国人技術者がチームを組んで、銀行の方と打ち合わせを行い、要件を聞き出して、システムを設計していきました。あの頃は、日本の企業ではまだ、外国人を受け入れるべきかどうかの議論をしている段階でした。不思議でしょう。外国人が日本の銀行の人事給与システムを設計してつくり上げるなんて。

 今は、要件定義までやらせてくれる企業はめったにないですね。一人か二人がチームに入り、日本の人と一緒にやるケースはありますが、以前のように丸ごと受けてしまうという案件には、なかなか巡り合えていません。ちなみに、銀行向けの人事給与システムは、計4行をやりました。そのなかの1行からは、品質優秀賞までもらいました。

見えないものをかたちにする喜び

奥田 ソフトウェア以外の事業について簡単に説明していただけますか。

 オフショア開発をこなしながら中国のマーケットも開拓していこうという思いがあって、手がけたのが北京のスポーツサービス事業です。具体的にはマラソンレースにおけるタイムの計測サービスを手がけています。選手にICタグをつけてもらい、途中経過を含めたタイムを計測・記録するものですが、中国の陸上競技連盟(中国田径協会)から唯一の許可をもらっており、北京マラソン、厦門マラソン、上海マラソン、広州アジア大会など、協会主催の大会では必ずこのサービスが使われます。ハードウェアはヨーロッパから調達し、ソフトは自前でつくって、それを抱き合わせたシステムです。中国全土に展開し、現在はおよそ100都市と契約をしています。

 その他、文化事業、健康事業も展開しています。

奥田 魏さんは落ち着いた雰囲気ですが、見かけによらず、すごい行動力があって、おまけに動き方が素早い。何がそうさせるんですか。

 「創新」の精神が大事だと思っているからですね。とにかく、人に、社会に役立つことを、自分たちができるならやりたい気持ちはあります。事業内容が豊富になり、商品やサービスのバリエーションが幅広くなると、接する顧客層も広くなり、みんなそれぞれ独自の考え方やライフスタイルをもっていることに対する理解が深まります。そうした幅の広がりに合わせるならば、のんびりと構えてはいられません。

奥田 なるほど、「創新」の精神ですね。魏さんは幼い頃からそういうタイプだったのですか。

 いいえ、まったく違います。ものすごくおとなしくて、本をたくさん読む子どもでした。今はまったく別人ですよ(笑)。

奥田 変わったのはいつ頃なのでしょう。

 会社を設立してからですね。接する人が多くなると、なにかしなきゃと、行動するようになって、使命感や責任感に後ろから押されたのだと思います。

奥田 行動するといろいろな情報が入る。情報が入ってくると、これはできるのではないかと思う。そう思うとやる、と。

 そんな感じです。でも、静かに本を読んでのんびり過ごすというのも、私の本来の姿なのです。将来的にはそれもいいなと思っています。

奥田 でも、今は行動ありき、ですね。

 そうですね。中国と日本は世界第二、第三の経済大国ですし、やることはあまりにもたくさんあって、今は、「何をやらないか」を考える必要が出てきたわけです。そうでないと、一つのことに考えが足りなくなり、かえって中途半端になりかねません。なので、行動する前に、きちんと考えることが大事だと思っています。

奥田 ところで読書家の魏さんとしては、歴史上の人物では、どんな人が好きですか。

 諸葛孔明ですね。そして好き嫌いは別にして、すごいと思うのは毛沢東です。この二人に共通しているのは予測能力の高さです。

奥田 その予測能力で勝ちにつなげるということですね。

 そうです。ビジネスも勝つしかありませんから。

・電子科技大学の美しいキャンパス


魏さんが生まれ育った成都にある出身大学。通信系分野では中国でトップの実力を誇る。このキャンパスに通っていたころは、おとなしくて読書好きの少女だったという。


・インタビューこぼれ話


 古い町並が残る成都の「寛窄巷子」で食事をすることになった。魏さんは言う。「近いから、私について来て」。歩き始めると迷いに迷って、倍の時間がかかった。「もしや方向音痴ですか?」。いつもと変わらぬ微笑みで「はい、そうですよ」。この平然とした物腰に宇宙の広さを感じた。(奥田)

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