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2012/11/15 09:30

インタビュー

[週刊BCN 2012年11月12日付 Vol.1456 掲載]

IT業界の規模が今の3倍になってもおかしくない
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩

 古くから業界の仲間として親しくさせていただいているインターコムの高橋啓介社長に「最近、何か面白いトレンドはないですか」とたずねたら、「東大の江崎先生に会いましたか」と逆に質問された。江崎先生が進めておられるプロジェクトは、IT業界にとって新しいマーケットの創出につながるというのだ。シェアの奪い合いで各社が疲弊している状況を打開するひと筋の光明が見えた気がして、さっそく本郷キャンパスの工学部2号館へと足を運んだ。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・小林茂樹  写真・大星直輝)

Profile

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年、福岡県生まれ。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。1990年、米国ベルコア社、1994年、コロンビア大学で客員研究員として高速インターネットアーキテクチャの研究に従事。1998年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。工学博士(東京大学)。

2012.9.13/東京・文京区の東京大学工学部江崎研究室にて

単純な省エネだけでは面白くない

奥田 先生は、東大グリーンICTプロジェクトの代表などを務めておられますが、現在に至るまでの経緯を聞かせていただけますか。

江崎 九州大学の大学院から東芝に入り、3年目にベルコア(前身はAT&Tベル研究所)に派遣されて、高速ネットワークの共同研究を行いました。そこで、後に副大統領となるアル・ゴアがつくった情報スーパーハイウェイ構想のもととなった研究に関わったんです。90年から91年にかけてのことですから、まさにアメリカのIT勃興期で、それ以来、インターネットの成長過程につき合ってきたという感があります。

 98年に東京大学に移ってからは、村井純さん(慶應義塾大学環境情報学部長/WIDEプロジェクトFounder)と一緒にIPv6の標準化に本格的に取り組むようになりました。そして、2000年から02年あたりはビルの改装やオフィス街の再開発が始まった時期で、ビルのスマート化は大きなマーケットになるのではないかという話になり、そのプロジェクトを03年にスタートさせています。

奥田 ビルのスマート化というのは、具体的にはどうイメージしたらいいのですか。

江崎 簡単にいえば、インターネットの技術を使ってビルの省エネ・高機能化を図るということですね。例えば、08年に開かれた北京オリンピックでは、当時の松下電工がメインスタジアムと水泳会場の照明をすべてインターネットベースでコントロールしました。

 ビル1棟の維持費のおよそ3分の1は電気代です。このビル(東大工学部2号館)は、年間1億円ほどの電気代がかかっていました。そこで、私の講演をたまたま聞く機会があった工学部長が「なんとか電気代を減らせないか」ということでスマート化することになったのですが、単純に節電してもおもしろくない。ならば、ここをテストベッドにして、次のステップにつながる産学連携のコンソーシアムを組んでやってみようとスタートしたのが08年です。

 当初、このコンソーシアムに参加したのはおよそ25社。電機、建築、設備などの企業の共同研究で、新技術を生み出したわけです。

奥田 東日本大震災が起きて、改めて電力供給に注目が集まりましたが、3・11以前に比べてどのくらい節減できたのですか。

江崎 このビルですと、ピークで44%の削減を実現しました。今年は20%オフと決め、これは完璧に守られています。コンピュータのクラウド化がものすごく効きますね。うちの研究室に限っていえば70%ほど落ちました。

コアコンピタンス以外はオープン化すべき

奥田 大変な効率化を実現されたわけですが、苦労されたのはどんな点でしたか。

江崎 先に紹介したコンソーシアムには、ゼネコン、サブコン、機器ベンダーなどが集まるわけですが、それぞれがオープン化に非常に慎重だったことです。つまり、コンピュータ業界でも、メインフレームの時代には、例えばIBMとDECの互換性はまったくなくて、一度導入したら他社のマシンに移行することができなかった。これと同じように、ビルディング業界でも、例えば最初にパナソニックの照明システムが入ると、更新時もパナソニックしか選択できないようになっているのです。空調設備も基本的には同じです。

 つまりオープン化すると既得権が失われてしまうので、大手メーカーほど後ろ向きになるのですが、世界一の空調機器メーカーであるダイキンは、「当社のコアコンピタンスはコンプレッサだから、それ以外は全部オープンにしていい」といってくれました。システム全体を囲い込む必要はなく、強みだけをブラックボックスにして、あとはオープン化したほうがマーケットは広がるということが、少しずつ理解されてきたんですね。

 このようなスマート化のプロジェクトでは、これまで経験したことのないかたちで空調、照明、電力システムなどをすべて統合して動かすので、それらをきちんと横串にして稼働するシステムをつくる経験や能力が必要になります。つまり、このコンソーシアムに参加しているインターコムのようなソフトウェアメーカーの存在が重要になってくるのです。これは、より規模の大きいスマートタウンやスマートシティの構想でも同様です。

奥田 なるほど、IT業界の役割は大きいということですね。

江崎 もっといえば、いままでIT業界はITしかやってこなかったわけです。けれど、このようなインフラの神経系として、かなりの部分を占めることができることがわかりました。イーサネット上に直流電流を流すPoE給電が実用化されれば、制御したり情報を取ったりというだけでなく、もっと大元の部分まで乗っ取れるかもしれません。

奥田 そこをもう少し具体的にお話しいただけますか。

江崎 IT業界の規模はGDPの8%ほどで、発電に関係する業界は25%ぐらいです。仮に電力業界の1割をIT業界が取ればプラス2.5%となり、30%近い成長になります。あるいは残りの92%の産業が、その効率化とスマート化に投資すると考えれば、相当な成長が見込めます。そうなれば、IT産業の規模が現在の3倍になってもおかしくないでしょう。

奥田 なるほど。IT産業が電力と情報の両方を握るかもしれない、と。

江崎 そういう状況になれば、電力線と情報線を同じマンホールに通してシティデザインを行う、あるいはデータセンターに自家発電機を装備して、そこを発電所兼情報の貯蔵庫にするということが考えられます。

奥田 ずいぶん具体的ですね。

江崎 発電所兼情報の貯蔵庫は、コンテナサイズで実現可能です。そのままトレーラーに乗るサイズでつくっていますから、災害支援にも、短期間での都市開発という用途にも使えるし、駐車場4台分のスペースがあれば設置できます。サーバールームの床荷重を気にする必要もありません。3・11の最大の教訓は、情報システムが動かなくなると経済活動が止まるということでした。この方法なら、情報に加えて、エネルギーも確保できます。

奥田 それはおもしろい試みですね。頭の中にそのコンテナの姿が浮かんできます。興味深いお話をありがとうございました。

・ベル研への派遣時に開いた日本語教室の楯


 アメリカに渡り、夫人と2人で研究員相手に日本語を教えた証。江崎さん自身の最初のキャリアという。ちなみに生徒のなかで一番上達が早かったのは、チェースマンハッタンのバイスプレジデントだったそうだ。


・こぼれ話


 なんと福々しいお顔なのだろう。話をうかがうと、物事がさらにうまく運ぶ気がする。水不足の時の節水要請はこれまでにもたびたびあったが、節電要請は3・11以来だ。いつの間にか私の心に節電意識が定着し、ある時これがスマートシティだと腑に落ちた。省エネは、電気なくしては動かないIT業界こそが取り組む課題だ。江崎先生はその先頭を走っておられる。

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