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2007/05/21 11:00

連載

[週刊BCN 2007年05月21日付 Vol.1187 掲載]

第48回 津山高専 井上恭輔さん

 高専プロコンで4年連続受賞(最優秀賞3回、審査員特別賞1回)を達成した津山高専専攻科1年生の井上恭輔さんが、ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門、IPA(情報処理推進機構)の2006年度未踏ユース部門(28歳以下)に採択されたのは昨年8月のこと。さらにこの5月には、06年度上期「未踏ソフトウェア創造事業」および06年度「未踏ユース」で採択された53件の中から選ばれる「2006年度上期スーパークリエータ」(15名)に認定されるという快挙を成し遂げた。(佐々木潔●取材/文)

スーパークリエータに認定!


人を感じるブラウザ「Antwave」完成


 井上さんのテーマは「ブラウジングコミュニケータ“Ant wave”の開発」。これは、広大な情報の海であるウェブそのものをコミュニケーションフィールドに見立て、ブラウジングという行動によって、ウェブ上の他の人とのコミュニケーションを志向したシステムである。高専プロコンの第15回大会(05年)で最優秀賞を受賞した「windWorks」以来、こだわり続けたアイデアを、アプリケーションとして結実させたものだ。

 ウェブは膨大な情報空間で、多くの人が必要に応じて情報を検索し仕事や生活に役立てている。だが、井上さんは情報を欲するクライアント(利用者)と情報を提供するサーバーという2者の関係にとどまっていることや、「いかに効率的にインターネットを覗き見るか」という利用法に根源的な違和感を覚えていた。そこで、ウェブを通して他の人と心から通じ合えるコミュニケーション・システムを作りたいという夢を抱いた。それを実現する手立てとして開発したのが、ネットワーク上に「円環状」のデスクトップを実現するシェル・プログラムで、マルチプラットフォームで動作する補助OSのwindWorksだった。翌16回大会ではこの発想をブラウザに移植した「超次元コラボレーションブラウザ“Antwave”」で2大会連続最優秀賞を獲得し、併せてBCN ITジュニア賞2006を受賞することとなった。

 興味深いのは、未踏ユースで採択されたAntwaveの企画と実現すべき機能がプロコン第17回大会の企画書にすべて出そろっていることだ。その意味ではこの2年間、井上さんはほとんどぶれることなく、ひたすら要素技術の高度化と作り込み(実装)に精魂を傾けてきたことになる。もっとも、スキルの向上に伴って過去のプログラムの欠点が次第に見えてきたことから、未踏ユースへの応募に当たっては、プロトタイプの実装をすべて捨ててゼロから構築し直すと宣言し、当初の企画書に盛り込まれたアイデアや機能のほとんどを、完成度の高いアプリケーションとして実現させた。


SNSでの採用目指し 企業へ働きかけを開始


 Antwaveはウェブ上のコミュニケーション機能に特化した多機能ブラウザだ。外見上の特徴は、ユーザーのブラウジング履歴を統計して生成されるエクストラリンク(画面右下)で、多くのユーザーが通った経路が太く表示されるほか、閲覧中のサイト周辺のページや、利用者、移動状況などが表示されることから、ネット上で自分の近くにいるユーザーの動向を視覚的に感じ取れるというものだ。

 同じページを見ている人にコンタクトしたければ、エクストラリンクアシスタントを使って「あいのりブラウザ」、チャット、Skype、ショットメッセージなどのワンアクションで誘いをかけることができ、出会った相手とあいのりブラウザを開始すると、遠隔地の複数のユーザーとまったく同じ画面を見ながらネットをめぐることができる。あいのりブラウザには、フリーハンドによる書き込み、スタンプ、入力同期、エモーションアニメ、ツッコミバイブレーションなどのコラボレーション機能が搭載され、共通のページをネタにさまざまなやり取りが可能になる。まさに、情報の共有をベースにしつつユーザー同士の共存を目指すツールとしての仕上がりとなっている。

 なお、同じページを閲覧中のユーザーへのコンタクトはP2Pによって行われるが、ファイアーウォールやプロキシサーバーを介在した環境下において、何ら設定を変更することなく外部との通信を実現している点にも、実装技術の高さがうかがえる。

 完成したAntwaveをどのように世の中に出していくのか。井上さんは、単品のアプリケーションとして出すよりもSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などで採用されるのが望ましいと考えており、Antwaveに関心を示しているSNSへの働きかけを開始している。

 つい先だってまでは大学院進学を希望していたが、ネットの世界の技術変遷の速さからあまり悠長に構えてはいられないと考え、この4月からはウェブ関連企業をターゲットに就職活動に取りかかったそうである。


高専生はもっと挑戦を 未踏ユースは有意義


 井上恭輔さんの未踏ユース部門への挑戦は、高専プロコンの梅村恭司審査委員(豊橋技術科学大学教授)から薦められたのがきっかけだった。岡田正教授は、未踏ユース挑戦の意義について「高専では与えることのできない環境をつくり出してくれる」と語る。

 「たとえば、井上恭輔君のように突出した発想やアイデアを持っている学生を個別に育てようと思えば、高専の教育といえども十分とはいえない。未踏ユースに挑戦し、採択されることによって、刺激を与えてくれて切磋琢磨し合うことのできる仲間ができ、さらにはサポートしてくれる指導者にめぐり会え、成果を発表する場や学会に出席する機会・予算が与えられる。プロコンで優秀な成績を収めるような学生には、社会に出る前段階として未踏ユースをぜひ経験させたい」というのである。

 指導教員の寺元貴幸講師も、「この1年で、井上君は他の学生の2-3年分の仕事と経験をしたはず。いちばん変わったのは、未踏ユースの作業を通じてスケジュール管理がきちんとできるようになったこと」と評価する。締め切り目前にならないと作業に取りかかれない悪癖も、学外で揉まれることによって克服され、進行管理能力も十分に身につけたようだ。

 もともと人を好きになるタイプで、見知らぬ人とのコミュニケーションや共存をテーマに据えてきただけに、プロコンに加えて未踏ユースで得た人とのつながりは一生の財産となるに違いない。


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