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2010/07/01 16:38

連載

<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第2回 流通が整えばSaaSは普及する……とは限らない(1/2)

プロフィール

岩上 由高(いわかみ ゆたか)
1971年、東京都生まれ。96年3月、早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻修了。ジャストシステム、ソニーシステムデザイン(現ソニーグローバルソリューションズ)、フィードパスなどを経て、07年にノークリサーチ入社。シニアアナリストとして、IT産業の調査・研究、コンサルティングを手がける。主な著書に「AdobeAIRの基本と実践」(日経BP社刊)などがある。
 サーバ機器やソフトウェアパッケージといった従来型のIT商材には、必ず流通の仕組みが存在する。メーカーの商材を集め、それらを販社やSIerに供給する「ディストリビュータ」は、なくてはならない存在だ。

 一方、初期に描かれたSaaSのビジネスモデルは、それとは大きく異なっていた。ユーザー企業が自社ニーズに合うサービスをインターネットで探し出し、サービス事業者との間で利用契約を直接結ぶという形態である。パッケージという“モノ”の流通を必要とせず、ブラウザさえあれば利用できる“サービス”という形態をとることによって、従来と同等のシステム環境をより安価に提供できるという点が強調された面があった。つまり、初期のSaaSには、こうした「流通での中抜き」のメリットを喧伝する傾向が少なからずあったのである。

 ところが実際にSaaSの訴求や展開が始まると、当初の狙いどおりにはいかないことがわかってきた。どのようなIT商材にも「認知」「構築と運用」「契約と課金」などの要素が存在する。初期のSaaSでは、これらの要素はいずれもサービス事業者とユーザー企業の間で直接発生する想定だったのである。だが、この想定には以下のような問題があった。

[認知]
ユーザー企業が、自社に最適なサービスを自力で見つけ出すことは困難。情報を集約したサービスカタログのようなものや、ユーザー企業のサービス選定を支援する役割が必要

[構築と運用]
サービス形態であっても、アカウント登録や既存システムとの連携など、構築や運用に関連する作業がゼロになるわけではない。ユーザー企業がすべて自力でできるわけでなないので、これらの担い手が不可欠。

[契約と課金]
SaaSは特定の業務シーンに特化したものが少なくない。本格的に利用するとなれば、複数のサービスを併用する可能性が高くなる。その際、複数のサービス事業者と個別契約するのは、ユーザ企業の負担が大きい。一方、SaaSを提供するサービス事業者側としては、与信管理や代金回収を自前で行う必要が生じてくる。

 中堅・中小企業(SMB)では、IT活用に取り組む社内体制が必ずしも十分ではない。そのため、これらの課題はSMBにSaaSを普及させようとする際の大きな障壁となる可能性が高い。

 こうした反省を踏まえ、SaaSを流通させるためのIT企業側における取り組みが、このところ急速に活発化してきた。従来型の商材と同様、SaaSにおいても「認知」「構築と運用」「契約と課金」といった要素を担うために、販社、SIer、ディストリビュータの力が必要という認識が強まってきているのだ。商材である以上、それがサービス形態であっても、何らかの流通上の仕組みは必要ということだ。

 このことは、過去の事例や調査結果でも裏付けられる。経産省が主導した「J-SaaS」は、中小企業へのSaaS普及を促進する制度として大きな注目を集めた。だが、導入ユーザー数は目標数を大幅に下回っており、SMBの認知度も低迷したままである。

 最も大きな要因として挙げられるのは、認知度の不足だ。中小企業では、IT活用の知識を会計士や社労士から得ることが少なくない。中小企業にとって身近な存在である彼らを通じて「J-SaaS」を訴求するという取り組みが十分ではなかった。また中堅企業でも、IT活用の相談先に既存の販社/SIerを上げる声が非常に多い。初期のSaaS訴求に欠けていたのはこうした既存の“売り手”の存在だったといえるだろう。

 こうした流れを受けて、最近は「ユーザー企業にサービスを届ける“売り手”がいれば、SaaSはもっと普及する」という論調を目にするようになった。つまり、SMBでのSaaS普及が進まない最も大きな要因は、サービス提供者とユーザー企業の間を埋める役割がいないから、という見解である。

 果たして本当にそうなのか。ユーザー企業とすでに接点をもつ販社やSIerが取り扱うようになりさえすれば、SaaSの普及はもっと加速していくのだろうか?

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